暑い日が続いています。昼下がり、新宿へ行くといつも、ある衝動に駆られます。
新宿の路上には、例えば大ガードの下あたりには、道で寝ているホームレスがいっぱいいます。中にはピクリとも動かずに目を閉じている方も少なくありません。大丈夫ですか、死んでませんかと、指でつつきたくなるんです。生存確認です。みなさんも、ホームレスをつつきたくなりませんか?
先週、そんなホームレスをつつきたい私が、大久保の公園へ行き、そこにいたホームレスのおっちゃんに自分のつつきたい衝動を告白したときのことです。
おっちゃんは黙って聞いた後、トツトツと語り始めました。
「こうも暑いと、やっぱり図書館がいいわな、涼しいから。大久保図書館とかは、ホームレス多いよ」
「そうなんですね」
「けれど、図書館は寝ていたらスタッフに注意されるからな。地下道もそうよ。寝ていたら、すぐに警備員が来る」
「なるほど」
「あと、マクドナルドも言われるわ。西武新宿のとこのマクドナルドは一番うるさいんじゃないの。東新宿もうるさい」
寝ている人間を起こすのはよくない、つつくなんて言語道断、という遠まわしな警告なのかしら?
と、おっちゃんがしばし瞑目し、そしてかっと目を見開きました。
「一番いいのは、電車やな。電車は涼しいし、寝てても大丈夫やから、ずーっと乗っとくのよ」
…んん? それってフツーじゃね? 大げさな表情を作るほどのことじゃなくね?
「でも、山手線とかじゃあないぞ。電車は●●に乗る。■■券が使えるから」
■■券ってのは、☓☓の人間が△△から付与される電車乗り放題パス。それを使って朝から晩まで●●の電車に乗るのが、一番かしこい夏の日の過ごし方だそうです。
「ってことは、おっちゃんは☓☓なの?」
「いや、わしは違う。けど買い方は知ってる」
買い方!? 買えるの?
「にーちゃんは山谷に行ったことあるか? 道にゴザ敷いてモノ売ってるやろ。あそこに、■■券の1年間使えるモノが5千円くらいで売ってるんよ」
マジで!? 確かに、台東区の山谷エリアには盗品を売るような輩が出没すると聞くけど…
「☓☓の人間の■■券が流れてきてんのよ。あと、これは聞いた話だけど、■■券はインターネットでも売ってるらしいわ。インターネットだと2万くらいするそうだけど」
スマホで調べてみると、フリマサイトに本当に出品されていました。価格は1万5千円です。やばいって!
「わしの知り合いに、実際に山谷で■■券を買ってきたヤツがいるわ。そいつは、夏の暑い日と冬の寒い日、もちろん普通にどこかへ行くときにも、それを使って電車に乗ってるわ」
自慢げに言われても困るし。法に引っかかってるだろうし。というかそれ、知り合いの話じゃなく、自分の話なんじゃね?
「だからにーちゃん、道で寝ているホームレスのことが心配なら、■■券を買って、あげたらいいんじゃないの?」
アホか! 誰がやるか! でも、こんな話を聞いたら、今後●●の電車でホームレスっぽい方を見かけるたび、悪事をうたがってしまいそうだよ。
暑さとは違う、妙な汗が出てきます。私はそこで話を打ち切ると、そそくさと公園を後にしました。
えー、みなさん、一応言っておきますが、ヘンなことを考えちゃダメですよ。メンインブラックのウィル・スミスに記憶消滅装置を当てられたかのごとく、この話はキレイさっぱり忘れ去ってくださいませ。