歌舞伎町に、ホストクラブがたくさん入る『第6トーア』というビルがあります。
ご存知の方も多いでしょう。近年、ホストとの痴情のもつれなどによって心を病んだ女性により、屋上からの飛び降り自殺が頻発していた場所です。
が、そんな悲劇の事態は、もう過去のことではあります。最上階の7階の外階段にある、かつて開けっ放しにされていた屋上へと続くトビラは、すでに封鎖。現在は物騒なことが行われぬように対処済みだからです。
とはいえ、今もこんな噂が残っています。
<第6トーアには、亡くなった女の子たちの霊が出る>
今回は、その調査へ行ってきました。
3月17日の昼。
わたしは、第6トーアの前で、知り合いの女性のAさん(30)を待っていました。
Aさんは売春婦なのですが、曰く、霊感を持ち合わせているとのこと。最上階へ連れていけば何かを感じてくれるんじゃないか。そういう狙いで呼び出したのでした。彼女もここがどういう謂われがある場所かは認識しています。
ほどなく、Aさんがやってきました。
「ホストとか行くの意味わかんねーし、第6トーア、入ったことはないんだけど」
ぶっきらぼうにそう言い、建物を見上げるAさん。こちらに向き直ると、わたしが着けているマスクをまじまじ見てきました。
「ねぇねぇ、さっき、爬虫類カフェに行ってきたんだけど」
「は?」
いきなり何の話っすか?
「フトアゴヒゲトカゲにキスしようとしたら、店員に言われたんだわ。トカゲにコロナがうつりますから止めて下さいって」
「…ウケますね」
「ンゴっ!」
鼻にかけたヘンな声を出すAさん。…よくわかりませんが、このカッ飛ばした感じ、彼女のいつものテンションではあります。気にせず参りましょう。
ビルへ入っていきます。エントランスホールの奥、2つ並んだエレベーターの左側に乗り込みました。
そこでふと、町で聞いた噂を思い出しました。
「そうそう、この左側のエレベーターが“出る”場所って話を聞いたことがあるんですよね」
「ンゴっ!」
再びヘンな声を出すAさん。もしかして何かを感じているんでしょうか? とりあえず、今日はこの「ンゴっ!」という相槌を使いたい日のようですが…。
エレベーターが7階に到着し、ドアが開きました。左右に廊下が伸びており、右手の突き当たりに外階段が見えます。
「じゃあ、ちょっと行ってみますか」
何となく緊張しつつ廊下を進み、外階段へ。屋上へと続くトビラはやはりキッチリ封鎖中です。
Aさんが呟くように言いました。
「…くっせぇ」
んん? どうしたんすか?
トビラとは反対、階段の下りていくほうを見つめているAさん。突然、素っ頓狂な声をあげました。
「これ、精子のニオイじゃね?」
何を言い出したんだこのねーさん? 理解がおっつきません。とにかくマスクを外します。
すると、香ばしいニオイが鼻先をかすめました。
「たしかに、そんなニオイがしますね」
Aさんが指さします。
「そこだわ! その白いの!」
見れば、階段に白いモノが付着しています。
「ここでパコったんだろ、これ?」
「ぽいっすね」
「ホストが客の女にオマエのこと愛してるよなんつって、立ちバックかぁ? てかこれ、まだそんな時間経ってないだろ!?」
Aさんが薄く笑い、付き合ってらんないといった感じで廊下のほうへ戻っていきます。
…まさかお化け探しに来て、こんな現場を発見するとは?
わたしもどこか緊張の糸が切れました。Aさんの後を追います。
「すんません、なんかヘンな場所に誘っちゃって」
「別にいいんだけど」
Aさんがエレベーターの前で足を止めます。
「でも、せっかく来たんだし、セントウさん的には写真くらい撮っといたほうがいいんじゃね?」
「たしかに、そうっすね」
いったん外階段に戻り、スマホを構えます。
精子をパシャリ。Aさん込みで階段をパシャリ、廊下をパシャリ。
特にその場で映りの確認などはせず、適当に3回シャッターを切り、エレベーターに向かいました。
第6トーアを出ると、どこへ向かうわけでもなく2人でブラっと歩きだしました。
「わし、タバコ吸いたい。喫茶店行こ」
「いいっすよ」
「てか、あのエレベーターやっぱいたわ。なんか、引っ張られる感あったし」
「マジっすか? だったらエレベーターの写真も撮っといたらよかったなぁ」
何の気なく、スマホを取り出す。写真フォルダの中の、先ほど撮影した3枚を見て、思わず息を飲みました。
…精子のやつはちゃんと撮れてるんだけど、他の2枚、どうしてこんなにブレてんだろ? もちろん、単なるミスショットだとは思うけど…。
★
下の写真がそれです。上から精子、階段、廊下。
第6トーア、もしかしたらやはり何かあるのかも!?